2025/12/05 19:00
離想宮という名の女性シンガーソングライターをご存知だろうか。作詞、作曲、編曲、歌唱、ミュージックビデオのアニメーション制作、ジャケットデザインなどすべて自身で手掛けているマルチクリエイターでもあるのだが、その独自の世界観を含む音楽性(本人いわく「ポップ日本歌謡」)が今、数多の表現者やエンタメ及びアート業界関係者、敏感なリスナーのあいだで注目を集めている。なお、離想宮という名前は、郵便屋の男性が仕事をしながら33年かけてひとりで作り上げたフランス文化遺産“シュヴァルの理想宮”に影響を受けたものだ。
今回の記事では、そんな離想宮の唯一無二の音楽性と人間性=世界観の面白さをあらゆる角度から掘り下げ、初取材した彼女の言葉とともにお届け。ドイツのワイマール憲法下のキャバレー、文壇バー、滝音、菅野よう子、ALI PROJECT、大槻ケンヂ、ライザ・ミネリの『キャバレー』、笠置シヅ子、服部良一、みんなのうた、フジコ・ヘミング、シェイクスピア、攻殻機動隊、宮崎駿『風の谷のナウシカ』(漫画)、ジョージ・ルーカス『スターウォーズ』、久石譲 etc.──これらのキーワードが渾然一体となっているテキストはなかなか読めないと思うので、ぜひご覧いただきたい。
<シュヴァルの理想宮の成り立ちとも重なる音楽ストーリー>
幼年期からピアノ教室でクラシックピアノや作曲も含む音楽表現を学び、劇伴作家の道を志していたこともある根っからの音楽家だった彼女だが、自らが作詞作曲したポップスを歌唱するシンガソングライターとして活動をスタートさせたのは、2019年。YouTubeに自身で制作したアニメーションのMVと共に楽曲をコンスタントに公開していくようになるのだが、最初は誰かに聴いてもらえるとは思っておらず、それこそシュヴァルのように自分が満足のいくお城を建てるようなイメージで活動していたそうだ。
離想宮「ずっと音楽の勉強はしていたんですけど、いわゆるポップスや歌詞のある曲をちゃんとつくってネット上に公開するようになったのは、5,6年前で。ただ、ネットには名だたるアーティストがたくさんいるから、なんとなく自分が満足できればいいかなと最初は思っていたんですけど、ここ数年で、自分が想像していた以上に聴いてくれる人たちが多くなって。自分だけの活動じゃなくなってきたことは嬉しかったし、ちょっと責任も感じるようになったんです。
最初は自分ひとりだけの為に音楽をやっていたから「ここまでしか出来ないな」という制限の中で活動していたんですけど、最近は昔から好きだったショー文化やキャバレー文化。それを自分の音楽を通して興行化できたらいいなと思えるようになりました。まだまだ力が足りないし、もっといろんな人に聴いてもらいたいなという想いはあるんですけど、今はひとりじゃなく人を巻き込んで、自分だけのモノじゃないモノをつくってみたいと思っています。
キャバレーと言うと、エッチなおねえさんが隣で話してくれるイメージを持たれるかもしれないんですけど(笑)、私が思い描いているのはドイツのワイマール憲法下のキャバレーみたいな、文壇バーみたいなイメージ。その時代のキャバレーって、もちろんセクシーなキャストが歌い踊る場でもありましたけど、芸術家がいたり、詩人がいたり、男装する女と女装する男が踊ったり、同性愛者がオープンに同性愛の歌を歌ったりする、凄く自由で混沌とした空間だったんです。文学的でもあり、衒学趣味で頭でっかちなかんじ。政治批判や風刺の歌もたくさん歌われたので、最終的にナチスに「退廃芸術だ!」と取り締まられて終焉してしまうのですが。もちろん私たちが映画や演劇で知る「キャバレー」はある種理想化されていて、その影で搾取されてた人もいるし、それこそドラッグや売春が流行ったからこそそういうナイトクラブ文化が発展した……という良くない部分だってたくさんあるんですけど、そこから出てきた文化や音楽やマイノリティ・シーンには価値があると思っています。
最近流行りの【昭和レトロ・平成レトロ】みたいなものもそうですけど、昔の価値観をそのまま肯定せず、ただ良かった部分は大いに紹介していく、みたいなスタンスでいきたくて、そういうキャバレーじゃないけど、何かハコを作って、お客さんも音楽だったり、詩だったり、絵だったり、何かしらの芸術活動をしていて、その中で誰かと誰かが組んで新しいモノをつくれるような、そういう場を提供できるようなアーティストにゆくゆくはなりたいんです。今はそのお友達探しの段階なんですけど、そういう感じで活動のステージを上げていきたいなって。名前も離想宮という場所の名称っぽい感じなので、自分の曲の手綱は握りつつも、いろんな人を巻き込んで「シアター離想宮」をつくりたい。」
<お笑いコンビ・滝音との出逢いで現実味を帯びてきた夢>
名は体を表す。とはよく言ったもので、彼女も最初はシュヴァルのように「まず石を積んでみよう」といった感覚でひとり音楽を創作していたわけだが、それが次第にリスナーによって価値を見出されるようになり、やがては「シアター離想宮」という社交場的な名所になる可能性も見出せるようになり、奇しくも“シュヴァルの理想宮”の成り立ちと同じようなストーリーを歩むことになった。
離想宮「昔から「これもやりたい、あれもやりたい」という気持ちが強くて、向こう見ずというか、絶対に出来もしない妄想をしていたんです。音楽活動もそのひとつで、自分で曲をつくって、それを人に聴いてもらって、ファンができたり、新しい場を生み出したり。それも子供が「プリキュアになりたい」と思うのと同じようなただの妄想だったんですけど、有難いことに今はそれが少しずつ現実に近づいている。
その大きなきっかけは、2022年に吉本興業のお笑いコンビ・滝音さんがいきなり声をかけてくれて、出囃子に自分の曲を使ってくれたんです。私が描いていた夢は、歌と踊りがあって、そこにコントもあって、手品もあって、ストリッパーもいて、風刺やシュプレヒコールみたいなものも含めて、すべてがある場をつくることだったので、芸人さんという縁のなかった人たちと音楽で交流できたことが本当に嬉しくて。それまでお笑いというモノに自分が関われると思ってもいなかったんですよ。学生時代はどちらかと言うと陰キャの集団に属していたし、お笑い芸人のマネをして教壇ではしゃいでいるような陽キャは怖かったから(笑)。それもあって隔絶された文化だと勝手に思い込んでいたんです。
でも、滝音さん経由で、お笑いを好きな人が自分の曲を聴いてくれるようになって、YouTubeとかで視聴者の属性を調べると、半分以上が大阪在住なんですよ! 2,3年目とかは70%ぐらいが大阪の人たちで。それは完全に滝音さんやお笑いファンの方々の恩恵。まったくそこに目掛けて書いていなかった曲たちが、そういう人たちに聴かれるようになったのはすごくありがたく、そして、面白くて。
それがきっかけで「じゃあ、私は音楽を通じて、いろんな人と関われるかもしれないな」と、ちょっと自信を持てるようになったんですよね。実際にそこから舞台をやっている人やゲームを制作している人、VTuberや映像制作をしている人からも依頼を受けることもあって「あ、いろんな友達ができる」みたいな状況になっているんです。そうなると、そういう人たちを巻き込んで、みんなで一緒に何か出来るかもしれないじゃないですか。」
<壮大な人体実験を図らずもやってきた結果が、離想宮の音楽>
彼女には、離想宮として活動する以前、ジョン・ウィリアムズや久石譲、すぎやまこういち、大野雄二などの影響を受け、劇伴作家を目指しながらも挫折してしまったストーリーがある。しかし、新たにポップスの道を歩んでいたら、今こうして舞台やゲームの音楽を任せられるようになった。それは形が変われど、音楽で生きていく道を諦めずに進み続けてきたからこそだが、ここに至るまでの遍歴があまりにも特異なものだったことも大きい。少々長くなるが、その唯一無二すぎる音楽ストーリーを本人の言葉で記したい。
離想宮「憧れの久石先生の母校、国立(くにたち)音大の作曲科に入って「さあ自分も夢を叶えるぞ! 劇伴作家になるぞ!」と思ってたんですが、学内で自分の曲は全く認められず、演奏会から名前を外され、ことごとく就活にも失敗し、完全に自信を失い、「もう終わった」と挫折した夢だったんですけど、それが今叶えられているんですよね。その当時は「シンガーソングライターをやる」なんて考えてもいなかったけど、一度挫折し、もっと個人的な思いを曲に載せるべきなのではないかと思い、歌詞をのせる曲を作ることを一から勉強し直しました。この道を選んでよかったです。
小さい頃から音楽自体はやっていて、3才ぐらいから地元のヤマハのピアノ教室に通うようになって、そこから二十歳ぐらいまでお世話になるわけなんですけど、ずっとクラシックをやっていたんですよ。で、5才ぐらいのときに初めて作曲をしたら、先生が「これは凄いぞ」と喜んでくれて。その先生の紹介で作曲の先生もつくようになって、週の大半をピアノ教室で過ごすようになったんです。もちろんピアノは好きだし、音楽も大好きだし、その過程で「作曲家になりたい」という夢もできたんですけど、逆に言うとならざるを得なかったというか、音楽をしないといけない強迫観念みたいなものが自分の中にあった
んです。
その当時聴いていたものって、基本的にはクラシックばかりでした。親がわりと音楽の好みにうるさくて、「ミュージックステーション」とか観せてくれないタイプ。なので、親が昔から聴いているような昭和歌謡と映画音楽、あとはクラシックだけをずっと聴いて。聴いたことのあるJ-POPは、友達が貸してくれるものだけが頼り。だから、インタビューとかで「影響を受けたポップスのアーティストは?」と聞かれると「どうしよう?」ってなっちゃうんです。でも、友達が大ファンだったポルノグラフィティのアルバムは全部聴かせてもらって。あとは、アニメが好きだったので、親に隠れて深夜アニメを観て、菅野よう子さんの音楽とかも聴いていました。あと、友達が貸してくれたALI PROJECTの歌詞には、かなり影響を受けているんじゃないかなって思います。明らかに宝野アリカさん(ボーカル、作詞)が経験していないことを書いているじゃないですか。ああいう妄想の世界みたいな物語を書いていいんだと衝撃を受けて。あと、私は本も好きなので、大槻ケンヂさんを小説家として知ったんですよ。なので、のちのち「この人、曲や詞を書く人なんだ!」と驚いて。そこから聴き出したんですけど、私が作詞の面で影響を受けているポップスの作家と言うと、大槻さんが挙げられると思います。
あと、劇伴作家を目指すようになったきっかけとしては、映画のサントラ。『スターウォーズ』の新作が出ると、公開日に親が映画館に連れて行ってくれたり。親にも「劇伴音楽家になりたい」とは話していたので、母親自体も映画好きですし、教育ママとして連れて行ってくれたんだろうなと思います。これはとてもありがたかったです! そうした映画や本の影響から歴史を好きになるんですよ。そこから古いジャズだったりに食指が動いて、それこそライザ・ミネリの『キャバレー』とかを観て「なんて格好良い世界なんだ!」と思ったり。学校の授業でナチス・ドイツの恐ろしさを知るから、その時代のドイツってすごく抑圧されていて、堅いイメージだったんですけど、その前の1910年代から20年代ぐらいの時代にこんなに自由な空間があったんだと驚いて、そういった音楽を聴き始めたりして。あとは、ピアノの先生に教えてもらったアルゼンチンタンゴとかボサノヴァとかを聴いて育ちました。
その影響もあって、離想宮の音楽はよく「レトロ」と言われるんですけど、それはレトロブームだから狙って書いているわけではなくて。それこそ今「レトロ」と言われるような、昭和、戦前とかの作曲家って欧米から輸入されたジャズやおしゃれなクラシックを聴いて、日本の歌謡曲をつくってきたわけじゃないですか。例えば、笠置シヅ子さんなどの曲をつくられていた服部良一さんがリファレンスしていた曲もそうだと思うんですけど、私は今それと同じようなことをやっているんだと思うんですよね。タイムカプセルじゃないですけど、今を生きている人間をポップスから遮断して、でも作曲だけはできるようにして、クラシックとかジャズだけを聴かせたらどんな曲を書くのか……という壮大な人体実験を図らずもやってきてしまった結果が、離想宮の音楽なんです(笑)。でも、それはそれで強みになるかもしれないなと思っていて。今ではこの環境を作った親や先生に感謝しています。あと、あの時代ってみんなオーケストラが書けるし、作曲理論を一からちゃんと学んだ人たちがポップスの世界を動かしていた。それがすごく格好良いなと思っていて、自分もそういうことができたらなとちょっと思ったりもしています。」
<「自分語りはいいよ」と嫌われていた部分が逆に軸になる>
クラシックにジャズ、映画音楽、昭和歌謡、アルゼンチンタンゴ、ボサノヴァ、親に隠れて聴いていたアニソン、小説から入った大槻ケンヂ。ここでは語られていないが、実はヒップホップにも造詣が深く、この記事の為の取材後に「打ち上げ」と称して踏み入れた新宿ゴールデン街では(酩酊してよくすべては憶えていないが)あらゆるカルチャーについて朝方まで熱弁していた。そんな根っからのオタクとも言える彼女が租借してきたミクスチャー音楽を一言で説明するなら、何になるのだろうか。また、その音楽を物語る、この時代においては異端とも言える、人間性丸出しで抜群の存在感を放っている歌声についても語ってもらった。
離想宮「最初は「闇のみんなのうた」と全面的に打ち出していたんです。アニメっぽい映像がついていて、しかもいろんなアーティストがやっているように1曲1曲姿を変えている感じも踏まえて「みんなのうた」と表現していたんですけど、音楽のジャンルとして答えるのであれば……ポップ日本歌謡。曲ごとには「この曲はロックだよ」とか「これはニューオリンズジャズだよ」とかいろいろあるんですけど、離想宮の音楽ジャンルを一言で説明するなら「ポップ日本歌謡」だと思います。
自分の歌のことを「上手い」と思ったことが1回もないんですけど、それでも「自分がつくった曲は、自分がいちばん歌えるだろう」みたいな感じで開き直っていて(笑)。でも、ライザ・ミネリの『キャバレー』みたいなお店が実際にあったとして、ライザ・ミネリは映画だからめちゃくちゃ上手いですけど、そこでその時代に実際に歌っていた人たちが専門的な教育を受けていたかと言うとそうではないと思うし、上手いとか下手とかの次元じゃなく、その人の人生から滲み出てくるもので聴き手を魅了していたと思うんですよね。フジコ・ヘミングさんとかのピアノもそうだと思うんですけど、もちろん確かな技巧や表現力があって評価されている部分もありますが、それ以上にその人の歩んできた道の重さとかいろんなものが出てくるから、きっとクラシック界を飛び越えて老若男女に感動を与えている。そう思ったら、肩の荷がちょっと降りたというか。
あと、AIが台頭してきて、すごく美しい歌声なんてどうにでもデザインできてしまう時代がもうすぐきてしまうかもしれない中で「これからどうすれば戦えるんだろう」と思ったときに、やっぱり「誰がどういう人生を歩んできて、どういうものを持っている人がどんな想いで歌っているか」というところがきっと軸になっていくんだろうなと。例えば、文芸とか舞台の世界で「シェイクスピアの時点で全部やってるから。あとはパクりだ」みたいな暴論がありますけど、その論調はAIによって加速していくと思うんです。その中で「自分は自分しか出せないから」みたいなオリジナルの部分。今まで「自分語りはいいよ」と嫌われていた部分や「自分自身が作る」という部分が逆に軸になっていくんだろうなって。そういうことが大切かなと思ったときに、いろんな方法があるにも関わらず、どうにか自分でつくった曲を自分のそんなに上手くない歌声で歌っているというのは、良いことなのかもしれないなと思って歌っています。」
<ルーカスや宮崎駿に感じた“軸を握って思想を貫く在り方”>
先ほど「親に隠れて深夜アニメを観て、菅野よう子さんの音楽も聴いていました」と彼女は語っていたが、その代表作とも言える『攻殻機動隊』には「囁くのよ、私のゴーストが」というセリフがある。どんなにテクノロジーが発達して、何でもAIで出来るようになって、人間の体が機械化される未来が来ても、結局はゴースト=魂で物事の価値を判断したり、自身の個性を形成したりする。それは離想宮の歌の話にも繋がる。どんなに音楽の生成方法が変わっても、その歌に魂は宿るのだ。
離想宮「ゴーストの部分は大切ですよね。今、例えばルッキズムが問題になっていますけど、このままテクノロジーが進化し続ければ、最終的にみんな義体化はするだろうし、誰もが理想の見た目は手に入れられるようになるだろうから、だとしたら「ゴーストを鍛えたほうがいいよ」って飲みの席で話したりしているんですよ(笑)。今もすでに大勢の人がVRの世界で好きなアバターになって人とコミュニケーションを取っているわけだし、一昔前はVTuberもこんなに流行ると誰も予想していなかったけれど、今やこんなにも市民権を得て、新たなカルチャーを生み出しているわけで。もはやガワは「どうにでもなるもの」で、キャラクター性、中身、つまり個性が重要なんです。この流れがどんどん加速していくことを考えると、マジでゴーストは鍛えてほうがいいのかなって思いますよね。
あと、私は一貫性が好きで。いろんな人が関わることで化学反応を起こして良いモノが出来るのも分かるんですけど、私の好きな“シュヴァルの理想宮”もひとりの奇人の執念が生み出した芸術作品として格好良いなと思うし、あれがなんで凄いのか考えると、手綱をぜんぶ自分で取っているからなんですよ。ジブリの映画とかも好きなんですけど、私はそれ以上に宮崎駿がひとりで書き上げた漫画版の『風の谷のナウシカ』が好きなんです。あと『スターウォーズ』がめちゃくちゃ好きなんですけど、やっぱりルーカスが制作総指揮をちゃんと自分でやっていた4、5、6、1、2、3の時代が圧倒的に良いと思ってしまう。ディズニーに権利が売られたあとの7、8、9やスピンオフ群は、たしかに作風に広がりは出て、良いところもありますが、ひとりのオタク青年の執念や熱量や「俺はこれが好きなんだ!」という、自分の妄想をそのまま爆発させたような作品ではなくなっちゃって。なので、一貫性は大切なんだなと思って、私も今まではぜんぶ自分でやるようにしてきたし、この先誰かと一緒に芸術をやることになったとしても、その人の一貫性や自分の一貫性をお互い保てるような作品を一緒に作りたい。自分で軸を握って、思想を貫く在り方はこの先もっと魅力的になっていくと思うんです。」
<最新曲「空中戦のゆくえ」とその背景にある先生の教え>
すべてのクリエイティヴを自ら手掛けるスタイルもまた、自身が敬愛するカルチャーとその制作者の影響だったわけだが、最新曲「空中戦のゆくえ」について語ってもらっている中で、離想宮を形成するうえでもうひとり欠かせない存在がいたことを知った。その人物は彼女の創作スタイルにも大きな影響を与えたようだ。
離想宮「この曲は「ロックを書いてみたい」と思ってつくったんです。以前、滝音さんのテーマソングを書くことになったときに私の和声というかコードワークだったり、曲の感じはそのままに「大阪弁でベンベン捲くし立てるような、元気があって格好良いロックンロールをつくろう」と。それで1曲書いたんですけど、今だったらもっと良いものが書けるようになっているんじゃないかなと思って。で、「生音のギターでもう1回ロックに挑戦してみたらどんな曲が出来るだろう」というところでつくった曲が「空中戦のゆくえ」。
あと、MVも自分で描いているんですけど、これの前にリリースした「アンタと同じ地獄に堕ちようか」「呪術医のバラッド」がどちらもオカルトポップエンタメみたいな曲だったので、MVもちょっとダークな色使いだったんです。だから「空中戦のゆくえ」では1回爽やかな色を使って、サムネイルにカラーバリエーションを持たせようと。で、夏休みの時期にファミレスで飛行機モノの映画を延々と観返しながらイメージを固め、青空とか入道雲とかと共に戦闘機の絵と動画を描いていきました。絵面としては『紅の豚』『地獄の天使』『レッド・バロン』『アビエイター』なんかに影響を受けていると思います。あと色んな航空機が出てくるゲームにも。
この曲の歌詞では、人間関係の話を空中戦に例えているんですけど、私は何か追いかけている歌詞を書くことがすごく多くて。あと、自分が置いていかれることのツラさというか、逆恨み(笑)。そういう身勝手な感情をよく書くんですけど、空中戦という題材はそれをすごい表現しやすいかもしれないなと思って。飛行機の後ろについて撃って落とすという流れを、身勝手にキレている奴が後ろから追いかけてくるイメージで書いています。
ちなみに、さっきのカラーバリエーションの話もそうなんですけど、私はリリースごとに曲やMVのイメージはどんどん変えていくタイプなんです。でも、似たような曲をつくったほうがヒットするらしいですよね? 最初からそういう考えがまったくなくて「ジャズで一発当てたら、ずっとジャズを書けばよかったのかな」とか今になってちょっと後悔しているんですけど(笑)。ただ、作曲の先生に「おんなじような曲ばかり書くような人間にはなるなよ」と小学生の頃からずっと言われていて。当時、私は久石譲さんに憧れて、久石さんリスペクトが丸わかりな曲ばかりを書いていたんですけど、ウチの先生は「劇伴音楽家を目指すんだったら、ホラーと言われたらホラーの曲を書かなきゃいけないし、宇宙戦争と言われたら宇宙戦争の曲をを書かなきゃいけないんだから、まったく違うものを毎回書け」と私にいつも言っていて、そのおかげで物凄く鍛えられたんですよね。なので、今も「違うモノを書かなきゃいけない」という洗脳のもと作曲しているんです(笑)。
あと、その先生は自作曲にすごく面白いタイトルをつけることが多い方で、私も「タイトルを凝りなさい」と教わりました。なので、今回の新曲「空中戦のゆくえ」も「空中戦」だけでもよかったんですけど、そのゆくえに何があるんだろうと気になるようなタイトルにしようと思って「空中戦のゆくえ」にしたんです。そんな感じで字面のインパクトみたいなものも毎回拘っていますね。」
<次回予告的なおはなし>
さて、離想宮の生い立ちと共に、その唯一無二の音楽性と人間性=世界観の面白さをここまで記してきたが、音楽を中心としたサブカルチャーが好きな人であれば、きっと誰もが興味を持ってくれたことだろう。だが、彼女の妄想=夢を現実にしていく物語はまだ始まったばかり。詳細は未定だが、次なるリリース候補の楽曲もその人生が色濃く反映された内容になりそうなので、そちらも含め離想宮の今後にもぜひ注目してもらいたい。
離想宮「次のリリース候補の曲はもう制作しています。音楽をやっている中で犠牲にしてきたものってかなり多かったなと思っていて。小さい頃からピアノのレッスンで忙しかったから、友達と遊ぶ時間も少なかったし、音楽大学時代の友達とは芸術を介しての友達付き合いをしていたから、そこに友情とともに嫉妬や確執が生まれたりもする。その結果、ただの中二病と言われてしまえばそれまでなんですけど、孤独になりたい病というか(笑)。「誰も分かってくれないし、自分でやるしかないんだ!」みたいな想いがあったので、それを俯瞰して書いているような曲の準備はしています。最終的にどんなタイトルにするかとか詳細は詰めている最中なんですけど、そちらも楽しみにしていほしいです!」
取材&テキスト:平賀哲雄
◎離想宮 YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCa5CXZN-1h4YSQ8BQ1UeboA
◎離想宮 Xアカウント
https://x.com/risoukyu
◎離想宮 Instagramアカウント
https://www.instagram.com/risoukyu/
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